森里海連環と海の森づくり
これまでの「海藻増殖」の文言が出ている訳ですが、「海藻栽培」については、是非「海の森づくり」松田恵明著(緑書房)や、NPO「海の森づくり推進協会」のホームページをご参照頂きたいと存じます。
ここでは現状の「海藻増殖」を補完する技術を追求し「特許」と言う形で申請しているもの(2011.1.1現在)がありますのでご案内させて頂きます。
何故特許なのか。グローバル超大企業が普遍的公共事業を特許で抱え込んでしまうとどうなるでしょうか。長年エコビジネスを見てくると、発明者・研究者は周辺特許で抱え込まれると対応できず、発明者は負債を抱え込むだけで報われないことが多々あります。発明者の努力が報われるように、誰でも使えるような特許を申請していますので、ご利用についてはご相談下さい。
(1)海洋施肥技術
近頃新聞紙上などで、海藻の増養殖のため、鉄分海洋散布がよいとの記事が見られるようになってきています。
しかし海水中の鉄濃度は微量で、その計測も困難な状況との事。また「毎年散布すればよい」と言う事でもないとの研究もあります。現状は工事として重機を使う方法で、少なからずコストがかかる大型公共工事(特許工法)ですので、漁民自身が簡単に利用し、収入増加になる方法がないものかと考えて来ました。
そこで、ロープに浮子をつけ、その中に鉄分他栄養塩を必要に応じて挿入し、少しずつ散布する方法を考えました。一度に重機を使って大量設置するのでなく、前浜を知る漁民に任せられないかと考える訳です。その方法として「以下図浮子」を使います。
(2)海藻増殖技術
栽培技術、増殖技術は色々あるでしょうが、ロープに拘ってきました。
ロープによる増殖は、他の方式と違って安すぎて公共工事に馴染まない、商売にならないのが欠点ですが、昔から知られている方法です。近頃ロープを取り扱える漁業者が少なくなったそう、急がないといけないと考えています。北海道では横にしても、縦にしてもロープを海に入れておけば、ロープにコンブが着床し育成すると言われてきました。
この方法ですと、何処にでも必要な場所に漁民の仕事として設置出来るだけでなく、増殖した海藻を回収利用出来ると考えました。
(3)環境保全型、多層式動植物複合増殖礁
10m以下の浅瀬は波の流力が強く、台風時には数10tの重量物も動かされてしまいます。浅瀬にはかなりの重量物が必要になりますので、「コンクリート製」の増殖礁を考えました。
私達は海藻がCO2を吸収し貯蔵、固定した時、温暖化防止にも寄与出来ると考えています。しかしコンブですと海水温が18℃以上になると溶けて(枯死)しまいますので、溶ける前に回収し利用する事が必要と考えています。対策としてロープと曲がっても折れにくい竹材を使って少しでも回収出来るよう工夫しています。参考になれば嬉しい限りです。
(4)利活用の最新情報
①有機農業の振興―リン回収事業、漁村鉱山化
今農業界に激震が走っています。それは肥料リンが手に入らなくなると言う事です。
リンは4~5年前までは有機リン(海鳥の糞が永年積層固化したもの)が輸入されていましたが、枯渇し代替として鉱物リンを使いだしました。この鉱物は100%中国から輸入していますが、輸出にストップがかかったレアアースと違って、鉱石そのものが中国以外にあまりなく、「戦略資源として使われては大変」と恐れられてきたもので、危惧が現実化したものです。
対策としてリンの国内調達が必要になります。
“リン”回収プラントに大手が参入しました。(技術的には旧知のものか)
私達も、従来は養殖糞尿は微生物で分解除去するようにしてきました。しかし、これからは変更し、リン回収用補助水槽を設置します。廃棄有機物、排水処理も微生物処理からリン回収に切り替えて―漁村(リン)鉱山―を目指す新しい時代を迎えたと考えます。
②TPP対応として高品質化・・・海藻利用で可能に
有機農法による高品質化、高収益、高収入が必須となってきました。美味だけでなく成分、硝酸イオン低下が評価される時代になりそうですが、化学肥料では困難です。
ミネラルやホルモンやビタミン等を含有する海藻肥料が使われるようになりそうです。
(5)バイオ燃料“藻”から~陸上海藻養殖にバイオファンが有効
新聞等の報道では複数のグループが陸上で油分を含有した微細藻類の養殖に取り組んでいます。
そのグループで使っている耕水機に、私達が活用しているバイオファン・カルチャーがあります。
「バイオファン」は旧武蔵工業大学(現 東京都市大学)の稲葉宏哉先生が発明した、流体発生機械として水の生態系を新たに創り出す事によって安心、安全の養殖を可能にする―として、海の医者のエコロジー「磯焼けの海を救う」((社)農文協人間選書203境一郎著)中で紹介されてかなり時間が立ちました。今回はバイオ燃料というとてつもなく大きな事業です。しかし、燃料は水より安い数10円/kgという世界です。省エネで大量生産できないと採算があいません。
私も動物の養殖はともかく、海藻の陸上大量栽培方式として“第3回海の森づくりコンブサミット”冊子「海の森づくり推進協会」に一文を書かせてもらいました。近頃になって、大学や日本のグローバル企業群(産官学)が大量にCO2を吸収した海藻類植物プランクトンから油分を創り出すことに省エネバイオファンが有効ならば、こんな素晴らしい事はありません。
バイオファンの発明者稲葉先生は、陸上栽培に対し、水域でバイオファンを使うと単位面積当たり大豆の200倍生産量があると計算していますが、農水省は大豆の280倍、パールオイルの20倍と推計しています。
『バイオファン』が地球を救ってくれるであろう事を願ってやみません。
(6)エビ養殖事業からバイオマス燃料へ転換で、エビ輸入ストップ!!
タイ国でのエビ養殖技術者の取り組みをご紹介しておきましょう。
タイでは田んぼ1ヘクタールで“米作”で2万円の収入となったそうです。ところが、この田んぼで“エビ”を養殖すると、200万円となるとして、穀物栽培をやめ広大な田んぼがエビ養殖池に変わりました。しかし、病気が発生して広大な廃養殖池が出来ました。田んぼに塩を入れて養殖池にしたため、元の様に“米”が出来ないと言います。
今この廃池で、バイオファンを使って、珪藻作りの技術を応用するなら、大量にバイオマス燃料が作れます。この時の収入が200万円から500万円に増えると計算しています。この計算根拠は分かりませんが、日本の農水省の「独立法人」とタイの大学や水産省技官等コンソーシアムを組んでバイオファンを使用・研究しているようですし、グローバル企業も日本での実験を終え、バイオファンを持ち込み現地で大容量の実験を始めたように聞いています。
その結果、今後東南アジア各国がバイオマス燃料を作れば収入が増えますから、エビ養殖から藻類養殖へと転業するでしょう。遠からず日本人の大好きな、エビ輸入は出来なくなるものと考えるのです。
新興国の大切な食料トウモロコシが牛に変わり、燃料に変わり、人間と牛との食料の奪い合いが問題になっていますが、エビの場合は『CO2を吸収する植物プランクトン生産』という温暖化ガス対策となり、貧困対策となり、石油問題の対策となるわけで、トウモロコシより複雑です。
人は何を選別する野が良いのか。ドイツ等ヨーロッパでは、農作物の作付けは”土質”により規定されていると言います。水圏利用も国際的な調整が必要な時代に入ったかも知れません。
(7)国際分業~日本は最高収益食糧生産基地になる~
タイの水産責任者や技術者にレクチャーを受けた時より日本での藻類生産技術開発が進んで、当時より10倍生産量が上がる技術開発が出来たようです。そうすると500万円より更に収益が上がるような計算になり、エビ養殖との差がますます広がります。
一方、エビ養殖は国がm2あたりの養殖数を60匹と決めているのですが、収益性が低いので「養殖数を増やさせてほしい」と要望されていると言う事です(2010.5月)。ちなみにマレーシアでは100匹以上200匹位の養殖密度で、タイの2~3倍ですね。それでもエビ養殖は藻よりも生産性が低いのです。マレーシアではエビが病気にかかり、海藻栽培に転業した人にも会ってきましたが、収益計算は変わってきても、日本人向けとなるとバイオマス事業は安価です。日本人向けとなると当社システムエビ養殖が現状断然有利です。いずれにしろ日本の感覚では、1ヘクタールあたり最低でも1億以上にならないと事業となりませんので、難しいですね。
(8)日本の藻類栽培事業の可能性と水質基準
海水を必要とするバイオマス用養殖池を陸上で作る時、「日本では休耕田を使うと良い」との新聞記事を目にします。しかし、環境先進国の日本では難しいかも知れません。塩分を使う先例として、日本各地に「漬物屋」があり、日本中に数千企業があるそうですが、近々排水の水質基準が変わるようです。「塩分濃度の高い排水が流せなくなり、廃業しなければならない」と相談を受け、テストをしてきました。特殊菌や酵素処理したり、マイクロバブル(10μ以下の気泡)を使ってみたり、膜を単独で・複合利用しても安価に処理することが出来ません。詰まる所、水を安価に加熱する製塩技法かと言われています。塩水を使うと言うのは簡単ではないのです。山間地の田んぼの塩分使用で廃池となったタイの先例を参考にしないといけないでしょう。
(9)バイオマス用藻類養殖は、”漁民”も”農民”も難しいかも~食糧生産専任か
バイオマス用藻類養殖は、現状はグローバル企業の主導で進められています。どの様な生産管理システムになるのか、特許の抱え込みが起きてくるのか、グループ間の競争が予想され漁業振興になるものなのか見通しが立ちません。
とりあえず、安価なバイオマス用藻類養殖池は新興国に任せる分業が必要で、日本の農林水産従事者は深刻化する「食糧不足」と「価格高騰」に対応する食品生産技術を充実させなければと考えます。
食糧の不足や高騰の原因として、自然環境の影響と新興国の経済力の向上に伴い、「戦略的輸出」から「自国消費向け」「動物タンパクの需要増」が指摘されています。2010年に訪問した東南アジア諸国の「エビ養殖」事情に絞ってみてもよく理解できます。
①養殖先進国 台湾は輸入国になり、市場価格は日本より高い。
②ボルネオ島(マレーシア)は、5年前には20,000t生産されたものが、1/10の2,000tになった。2,000tでは冷凍工場の経営ができないので、生産調整に入り、島内消費価格を下げないように減産している。余分なものはインドネシアに輸出しているとのことです。
③タイでは50%は自国消費に回し、残り半分近くを30%高値で売れるヨーロッパ向けに輸出し、残ったら安い日本へと輸出しています。
④中国では安全な日本産は高くても買いたい。
まさに、日本は輸入がますます厳しくなっていく様が見られました。そして高収益”藻類”生産が始まるまで、10年しかありません。
『食品輸入』から『国内生産』にシフトしないと、最高額輸入タンパクである『エビ』が日本から姿を消すのが目に見えるようです。